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連載 『香りはロイヤルミルクティー』 11 ラストコンテスト       [香りはロイヤルミルクティー]

 『出場することに意義がある』 なんていう甘い考えは捨てていた.
僕たち視聴覚委員会の、最後のコンテストの目標は大胆にもただ1つ.
『1位を獲る』 だった.

 万全の態勢で臨むべく、特別編成を組むことになった.
NHKコンテストの場合、番組制作は課題部門と自由部門に分かれていて、もちろん
その両方にエントリー可能だったので、僕たちは2チームに分かれることにした.
あわよくば両部門で1位を獲ってしまおうという虫のいいことを考えていたのだ.
くじ引きで自由部門はヨシユキ・ちーちゃん・ちえちゃん・僕の4人.
課題部門はカツヤ・ムラサワ・ムトウ・あっちゃん・オビキン・五味さんの6人.
課題部門が6人なのは、僕とヨシユキの主戦力が自由部門に来てしまったため.

 この年の課題は『高校生活とは』という、あってもなくても同じようなものだった.
彼ら課題チームの方はサブタイトルに『習熟度別クラス編成を考える』と題し、
その年からM高で実施された、成績によって年2回ほどクラスを編成し直すという、
生徒の人間関係を踏みにじった暴挙を取り上げることになったが、教師の取材を
続けるうち、なるほどと納得せざるを得ない事情であることもわかった.
そのあたりを生徒の意見も混ぜながら構成していくことになったようだ.それ以上の
過程は僕は知らない.

 さて我々自由部門チームの内容はこうだ.
4月下旬、我がM高で校内暴力が発生し、新聞ざたになってしまった.今でこそあまり
騒がれないが、当時校内暴力というのはかなりセンセーショナルに報じられて1つの
社会現象にまでなっていた.
それがM高で発生してしまい(それほど大事ではなかったが)、事態を重く見た校長は
このままでは正常で安全な運営は期待出来ないとして、叱責・反省の意味も含めて
学園祭最終日のファイアーストームを30分繰り上げ、18時半終了とした.
夕闇の中で燃えさかる炎を見るのは「雰囲気」という点で大きなハイライトととらえて
いた生徒たちは、その時間短縮に強烈に反発し、事件を起こしたのは1人なのに、
なぜ全員がその責任を問われるのかと抗議したが、「安全が保障できない」という
理由で学校側は崩れなかった.
そうこうしているうちに生徒側の団結力はみるみる強靱になり、ついに自主生徒集会
を開くまでになった.
『僕たちを信じてくれ、やらせてくれ』とマイクを奪い合ってその熱意を伝えた.
そしてついに、学校側は折れた.情熱が権力を打ち負かした瞬間だった.

 と、まあ我々自由部門チームはそんな過程をドラマチックに描いた.
知らぬ間に僕がチーフになっていた.
とにかく従来の公式を破棄したかった.とかくインタビュー構成とかドラマ構成とかDJ
などになりがちだったが、今回はすべて生録のロケーションとし、作り物を一切廃して
生の迫力を出すことにした.
そんなわけで僕は、委員会・会議・集会など、関係する方面の会合にはすべてテレコ
をかついで行った.7分の番組を作るのに数時間分の収録テープがたまった.
この中から必要な部分を拾い出すのは容易ならざる事のようだったが、幸い校長と
生徒会長が上出来の発言をしてくれたので助かった.
しかし7分に収めるには削りに削ってぎりぎり最小限しか採ることができず、内容を
損なわずにいかに縮めるかが勝負だった.

 そして、思ったよりもスムーズに完成した. いい出来だ.
確実に上位入賞を狙える射程距離内にあることを僕は確信した.

コンテスト当日がやってきた.
NHK甲府放送局の第1スタジオは緊張がみなぎっていた.成績発表だ.
「3位、OO高校・・」 「2位、OO高校・・」 発表のたびにあちこちから歓声が上がる.

そして. 「自由部門、第1位  甲府M高校 『今、燃えあがる』」

「やったー!!!」 僕の隣にいたヨシユキが同時に声を上げた.
ついに栄光の、YBS・NHKの両方制覇を成し遂げたのだ.課題部門も3位に入賞だ.

「これで悔いなく隠居できるな」 みんなでそんなことを言い合った.

そして僕にとっては 「これで悔いなく卒業できるな」 でもあった.

                                             《了》

ご愛読ありがとうございました.

                              初出 同人誌『む』 1987年3月22日
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