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連載 『香りはロイヤルミルクティー』 7 ファーストコンテスト    [香りはロイヤルミルクティー]

 明けて2月、1年生最初の試練、『新人コンテスト』がやってきた.
県内の高校放送コンテストは3つあった.6月のNHK、8月のYBS、そして2月の
YBS主催の新人コンテストの3つで、1番権威があるのがNHK、次がYBS、この2冠
を制すのが各校放送部の最大の目標だった.
このうちNHKは、各部門県内上位3位までは東京で行われる全国大会への出場の
切符を手に入れることができるのだ.言わば放送部のインターハイである.
もちろん全国レベルは桁違いに高い.

 大会は「ニュース」「朗読」「番組製作(ラジオのみ.当時はまだ映像を扱う高校は
ほとんどなかった)」の3部門に分かれていて、アナウンサー陣はニュースまたは
朗読部門に、僕みたいな技術陣は番組製作に挑む.もっとも番組の内容に関して
は、アナ・技術全員で結束して作り上げるのだが.

 とにかく新人大会が迫っていた.アナウンサーは個々の練習に任せるとして、
問題は番組だった.7分以内という規定があるだけで何をどう表現してもよかったが、
それがかえって漠然としていて何を作っていいのかわからなかった.
先輩の作品を聴いてみようということで、その時の3年生がNHKコンテストに出した
作品を聴かせてもらった.なんとその作品は県内1位だったのだ.先輩は偉大だ.
『生きる』と題されたそれは、同級生がバイクで事故死した実話を基に心理ドラマ調
の進行を見せる.
BGMの一部にPink Floydの『狂気』の心臓の鼓動が使われていた.自分たちで
シナリオを書き、自分たちで演じているわけだが、熱中するあまり本当に泣き出して
しまった人もいたとか.

 これを聴いたのがまずかった.すっかり感化されてしまったのだ.
どシリアスなテーマに心理ドラマ調の進行、BGMにはPink Floydの『吹けよ風 
呼べよ嵐』、タイトルまで『訴える』と、かの『生きる』にいかに影響を受けたかが
わかるというもの.
もちろん本人達は一生懸命に作ったのに、出来上がりはとんでもない物になって
しまった.内容は、あまりにひどいので忘れよう忘れようと努力した甲斐あって、
本当にきれいさっぱり忘れてしまった(マジで).

こんなものを他人(特に後輩)に聴かれては末代までの恥、というので、ヨシユキは
そのテープをどこかに隠してしまった.それ以来未だに誰もテープを聴いていないし、
ヨシユキもその在処を教えてくれない.
今頃、どこか時空の谷間に埋もれているに違いない.

オープンリールテープ.jpg

 初めてだけあって、良くも悪くも苦労して作った作品だった.
コンテスト前日だというのにまだ完成していないという、まるでどこかの同人誌
みたいな状況に陥った.
18時半になって当直の先生が帰れと言いに来る.僕達は明日がコンテストなので、
何とか残らせてくれるように頼んだが「帰れ」と言うばかり.こっちも焦っていたので、
しまいには食ってかからんばかりに迫ったが、ものすごく憎たらしげな口調で「ダメダ、
帰れ」と繰り返すクソッタレ先公.
普通こういう場合、「おーそうか、がんばれ」とか言って一緒に残ってくれて、ついでに
お茶なんかを差し入れてくれたりするのがモハン的教師のあるべき姿というものでは
ないだろーか.現実は青春ドラマとはかくもかけ離れた冷淡な世の中なのか.

とにかくこのまま帰るわけにはいかないので、放送室の窓の鍵を開けておいて、
(幸いにも1階だった)一旦帰るフリをして、先公が帰った頃に戻ってきて窓から侵入、
という方法を採ることにした.そしてその作戦は成功するのだが・・・.

何だかの音を録るのでヨシユキがマイクとスタンドを窓から出していた時、ちょうど
警備保障会社の定時巡回車が来たのだった.19時に来ることは事前情報で知って
いて、その時の対策も考えてあったのだが、タイミングが悪かった.
ヨシユキは車に連れて行かれ、いろいろ尋問されているらしかった.僕達は明かりを
消した真っ暗な放送室で息を殺して成り行きを見守っていた.
ヨシユキのことだからまともな説明をしているだろうが、しかし警備員がここへ来ない
のは、ひょっとしてヨシユキが1人で責任をしょい込むつもりだろうか.熱血漢である
アイツならやりかねない.

僕は突如ひらめいてヘッドホンを取り上げ、ミキサーのボリュームを上げた.
思った通りだ、外に出したマイクが生きている! これで少しは外の状況がわかるよう
になった.が、僕の耳に飛び込んで来たのは絶望的な言葉だった.警備員が無線で
会社に連絡する声.
『あー、放送室からマイクを盗み出そうとしていた生徒を発見・・・・・・』
な、なんでそうなるのだ! 確かに窓から機材を運び出していたわけではあるが・・・.
1人でヘッドホンをして引きつっている僕を見て、あっこちゃんが何なにどーしたの、と
訊いてくる.状況を説明すると、そりゃー皆で出て行くしかないな、ということで僕達は
ぞろぞろと出て行ったのだった.

事務室でわけを話すと、2人の警備員はあの当直先公よりずっと物わかりがいい人で
よく納得してくれたが、すでに生活指導の平井には連絡が行っているらしかった.
こりゃあさっての月曜日は呼び出し食らって大目玉だな.別に平井は怖くはないが、
じめたらネチネチとしつこい説教を食らう月曜のことを考えると気が重かった.

とにかく今日はこうなってしまった以上、作業の続行は困難だった.
録れるところだけヨシユキに自宅でカセットに録ってきてもらって、あとは明日の朝に
賭けるしかなかった.
幸いコンテスト会場はすぐ隣のK商高だった.5分あれば行ける.
懲りずに例のごとく放送室の窓の鍵を開けておいた.朝1番で行って作れば何とか
間に合うかも知れない.

そして、できた.間に合った. 賞なんかより、何より出来たのがうれしかった.
それに輪を掛けて5位という結果は、誰もが諦めていただけに満足するに十分だった.
こうしてFirst Contestは終わった.
                                              つづく   
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